檸檬水
例えば、檸檬水を凍らせたもの。
例えば、青く半透明な石鹸の中に閉じ込めたもの。
例えば、バイオレットフィズの入ったカクテルグラスの底。
もしくは、全く関係の無い、ただ朱が続く京の町の神社。
全て透き通ったものでできている気がして、私はそんなものになりたかった。
浮遊している、ただただ揺蕩い、微睡む。
根無し草の昔、私はそんな空間に居たかった。
水の中揺らぐような、風に溶けて草木を揺らすような、田畑の苗を揺らすような、誰かの頬を撫でるような、誰かに匂いで気付いて欲しいような
鋭い美しさは、見ているものとして心奪われるから。
持てる優しさは、日向のようで
麦わら帽子に白いワンピースが似合うような夏の女の子になりたかった
風に吹かれて散る桜吹雪の儚さが似合う女の子になりたかった
いつの間にかもう「女の子」ではなくなっていた
秋も冬もどうしてかいつも待ってはくれなくて、あっという間に未来を見せてくる。
時間の流れがあまりにも早い。
顔の系統に合わせるのではなく、和顔の美しい女性でも在りたかった。
何もかもが、無い物ねだりで消えていく、
二十四歳は、もう現実の男性に恋などしない。
これからは、自分の創作物に恋をする。
私はもう、誰かが居なくても恋を生み出せる。
きっとまだ感性は死んでいない。
好きなように、心の中で何かを薫らせる。
水彩画にも似た、そして柚子の香りでもしそうな
自分の書くものが好きだと、ようやく涙して言えるのだ。
文学
私小説にもならない、ただただ美しい描写の羅列
それらを生み出し触れるだけでいい。
無理して他人を真似ることは無い。
例えば、椿が首を手折られるのを待っているかのような──
黒と朱が爻わる、その空間に、恋を。